2022年12月26日  谷口 怜

今回の間取りのテーマは「階段」です。お家の間取りを考える上で2階建てにする場合、必ず階段が発生します。2階建て以上のお家で生活する方にとっては階段は人生で最も遭遇する段差といっていいでしょう。

日常的に使用する場所ですから間取りの検討する際には一度、立ち止まって考えて頂きたい場所でもあります。中西工務店では安全性や、使いやすさを考慮した階段の基準を設けていますので、一般的な階段とどういった違いがあるのかも含めてご案内します。

 

交通事故より多い家庭内事故の死亡事故

厚生労働省の「人口動態統計2020年」によると、家庭内で発生した不慮の事故で亡くなった人は約13700人でした。交通事故で亡くなった人約3700人の約3.7倍です。

死因の1位は、「不慮の溺死及び溺水」2位は「不慮の窒息」3位は「転倒、転落・墜落」です。死亡まで至る事故は1位の死因を多くを占め、65歳以上が約9割となっていますが、2位や3位の死因は0歳から14歳のこどもも多く含まれています。

骨折などの重傷を負いやすいのは、階段からの転落や段差での転倒です。死亡事故ではないので正確な統計はありませんが、階段での事故は最も「ケガの多い」家庭内での事故原因といっていいでしょう。

子どもや高齢者に多いとはいえ、一歩間違えれば大人であっても大ケガをするかもしれない場所が「階段」です。

 

危険の少ない階段とは?

建築基準法では階段と踊り場について「幅」、「蹴上(けあげ)一段の高さ」、「踏面(ふみづら)奥行」、等が規定されていますが、建築基準法で定めているのは最低寸法です。一般住宅の階段を最低基準で造ると、蹴上23cm、踏面15cm、階段の幅は75cmになりますが、実際にこの寸法で造ると形状はハシゴに近く、凄く急で危険な階段になります。

危険を少なくするためには、「転落しないようにすること」、「転落した場合に備えること」の2つの観点から階段の作り方のポイントをご紹介します。

1、幅

階段の幅は、狭すぎはよくありませんが幅が広すぎるのもよくありません。一般的な階段は通るだけなら支障がないという方も多いかもしれませんが、家具や家電の搬入ができないや一時的な介助が必要になった時際に介助しづらいなどはよく聞きます。最も多いのはやはり大きな荷物の上げ下ろしが大変という事です。

幅の広すぎる階段ではどういった事が起こるでしょうか?一つは予算に余裕があれば広くても良いかもしれませんが間取りへの影響が大きくなる点です。

もう一つは転倒した際に幅が広過ぎると、とっさに壁等に手をついたりして踏みとどまれずに落下する危険性がある点です。

大人であれば両側に手を広げると自分の身長くらいと言われていますが、実際にとっさに突っ張って力が入りやすいのはせいぜい100cmくらいです。実際の有効寸法で80cm~110cm程度までが良いと考えています。

2、蹴上と踏面とのバランス(階段の勾配・緩さ)

上り下りしやすい階段寸法には、よく使われる「蹴上×2+踏面=60cm」という計算式があります。ですがこれはあくまで参考になるだけです。前述した最低寸法の階段で計算してみると
「23×2+15=61」となりハシゴみたいな急な階段が上り下りしやすい60cmと近い数字になってしまいます。

また小学校等の公共施設などの緩い階段には蹴上15cm、踏面30cmがよく採用されますがこれも計算式に当てはめると60cmになります。

しかし住宅でこれを採用すると階段の面積が2倍くらいになってしまいますし、普通の大人にとっては小学校等の階段は少々上りづらかったりします。

重要なのはご家庭内でどなたに合せるか?です。後述しますが、当社では一般的な大人20代~60代が苦なく昇降できる勾配より少し緩くすることで、こどもたちや高齢者にも上り下りしやすく危険の少ない寸法をご提案しています。

3、直進階段を避ける

直進階段とは廻り階段や踊り場が無く、まっすぐに上まで上る階段のことで、直階段、鉄砲階段ともいわれます。
問題点は一度転ぶと一番下まで真っすぐ落下するように転げ落ちてしまう点です。

転倒した時のケガのリスクが最も高くなります。プラン上やむを得ない場合は優先順位を考慮して採用し必ず手摺を設けるやスベリづらい材質の採用を検討しても良いかもしれません。

4、踊り場部分に段差を設けない

廻り階段の場合、踊り場ではなく3~5段の段差をつけて廻りながら上り下りする階段とすることが多くあります。これも直進階段と同様、転倒した際の行きつく場所が段差のある曲がり部分であることや、そもそも曲がり部分での階段の踏み外しリスクが高いことが危険になる原因になります。

5、階段の素材の選定

これはイメージしやすいですが、転倒した際には階段材にぶつかることになります。階段の形状や、素材(木製なのか鉄製なのか)でケガの被害は当然変わってきます。

人気のストリップ階段も下に他のご家族がいれば物を落とした時にぶつかってしまいます。お好みのデザインとのバランスを考慮してリスクがあることを踏まえて採用しましょう。

 

日本で最もよくみられる1坪階段と当社の階段

よくみられる階段のタイプで「1坪階段」と呼ばれる形があります。これは平面図の中で1坪に階段を納めた間取りです。一般的な建売住宅だけではなく、注文建築でもこの寸法形式を採用している物件が多いです。

踊り場にも段差を設けた廻り階段として造ることが多く、幅は75~77cm、蹴上(段差)は20cm~22cm、踏面は22cm前後となることになります。

それに対して、当社で標準的な階段は、幅88cm、蹴上は18.5cm、踏面は24cmとしており、踊り場には段差を設けておりません。

イメージ図見比べてみると1坪階段は少し急で窮屈な階段だとわかると思います。

踊り場にせず、廻り階段とすることで面積は減りますが、万が一階段で転落した先が段差のある廻り階段部分だと思うと、危険度はグッと跳ね上がります。

 

 

階段を考えることは、注文住宅だからできること

1坪階段が多く使われている理由は、設計しやすいということ、規格階段としてキットをセット販売しているからなどの理由がありますが、当社で採用している階段も実は値段はほぼ変わりません。

もちろん当社での仕入れ努力もありますが、本質的な要因は多くの会社で大工工事を外注するため、特殊なことをすると外注費が高くなる事や、設計者に規格グリッドから外れたプランの経験がなく限られた予算で間取りがうまく組めないことがあります。

階段が緩くすると面積が大きくなるといったことは設計の工夫でうまく解決することができます。建物もプランは平面図で描きますが、創っているのは空間で3次元です。階段下は収納やトイレなど様々な利用ができます。面積を必要以上に大きくしなくても階段を緩くした開放的なプランは十分可能になります。

安全性と合わせて考える階段の施工事例

階段は設置する場所によってはデザインにもこだわりたいという方も多いと思います。リスクを理解した上で採用をすれば、アイアン系の階段やストリップ階段にはデザイン性に大きな魅力があります。少しだけ施工事例をご紹介します。

アイアンと木製の踏板を組合せた階段で、ロフトへつながる階段です。

吹抜けと階段を一体にしたリビング階段はとっても大きな空間を創ることができます。お家が高気密高断熱であれば大きな吹抜けも温熱環境的に省エネになります。

2階リビングのと小屋裏へとつながるリビング階段は、屋根の傾斜を利用した高すぎない吹抜けが人気です。2階リビングとすることでいつでもカーテンを開けられる明るいリビングになります。

※いずれの事例も手摺取付前の写真です。

普段は気にせず安心して暮らすために安全性の高い階段に

 

1日に1.5回使ったとして1年で500回以上使用するお家の階段ですが、階段について普段から考えている方は、まずいないと思います。だからこそ毎日使う家の中の階段についてお家づくりの時に一度、考えてみてはいかがでしょうか。

 

2022年12月26日  谷口 怜